2008年09月28日

『フィッシュストーリー』伊坂幸太郎

 

 伊坂幸太郎は大好きな作家だ。
 映像的なだけではなくて、
映像では決してなしえない叙述トリックや時系列の交錯。
文章だけでここまでわくわくさせる作家に出遭ったことがなかった。
そんな技術だけでなく、辛い現実に直面する登場人物への
飄々としながらも、暖かいまなざしは
殆どの作品に爽やかな読後感を残していて、それがまた格好良い。

 全ての作品の根底にある
「深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という姿勢。
この台詞が出てくる『重力ピエロ』が好例で、
伊坂作品には恥ずかしいくらい真っ直ぐな“勧善懲悪”があったりもして
変に良い子ぶって“理不尽を許す”みたいなことをしないのもまた良い。

 もう自分は伊坂幸太郎だったら何でも好きで、
 いっとき、彼の作品しか読んでいなかったくらいで、
だから、自分が読んできた伊坂作品の集大成のような
最高傑作『ゴールデンスランバー』を読んでから、
しばらく距離を置いていた。
それでもまだ数多い彼の作品を全て読みきれてはいなかった。
 
 そして『ゴールデン〜』発売から十ヶ月くらいたった今、
再び伊坂ワールドに触れたのがこの作品でほんとうに良かった。

 短編集と言うから、『死に神の精度』のような連作を想像したけれど
これは、登場人物が少しかぶるくらいで、
基本的には完全に独立した四つの短編。
 他の伊坂作品とのさりげないリンクがあって、
また全部読み返したくなってしまった。

 前半二つは正直、あまり好きではない。
『サクリファイス』に、
『ラッシュライフ』等の他作品でも活躍していた黒沢が出てて嬉しかったくらい。
 何だろう、読み手を欺く技巧は確かに凄いけれど、
そのためだけに用意された話のようで、いまいち中途半端な感じ。
それでも面白かったんだけれど。

 後半の二編はもう、めちゃくちゃ好き。
森見登美彦もそうだけれど、伊坂さんの作品も
ただただ感情的に“大好き!”になることが多いけれど、
これもそうで、だからただ“この話大好きでした”と書くだけで
個人的には満足なんだけれども、一応。

  『フィッシュストーリー』
 表題作でもある作品。
小説でも映画でも何でも、“音楽の力”をテーマにした作品は大好物で
昔の作家の苦悩や、売れないバンドの想いが時空を越えて起こす奇跡は
前半ではそれだけでも一作出来ちゃうくらいの“巧さ”で紡がれ、
読み手を前向きな気持ちにさせる清々しさ。
 
  『ポテチ』
 あのマンガも、タイトルも、全部繋がっていたとは。
 伏線が多くて、途中でタネはわかってしまうけれど、
伊坂幸太郎にとって“技巧”ってひとつの手段でしかないんだなぁ、
そうまで思ってしまう傑作。
 今村を見守る大西と黒沢も凄く良い奴だし、脇役全員がいちいち格好良い。
キリンの話も凄く好き。

 『アヒルと鴨のコインロッカー』や『重力ピエロ』のように
どうしようもなく避けられない、辛い現実に直面して、
それでも真っ直ぐに生きていく今村の姿。
 それを見守る大西たちの起こした奇跡。
 “状況を打破”した訳じゃない。
それでもきっと、彼らの“心”はきっと動いた。
 ラスト、鳥肌たちっぱなし。
 
 やっぱり、伊坂さん、大好きだ。



posted by B.B.Jim at 21:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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